※ムーンライトノベルズで執筆しています「吉田家長男の幸せ」のお話になります。
初めての方はよろしければ下記小説を読んでからお進み下さい。(BL18禁なので苦手な方は避けて下さい)
ムーンライトノベルズ 吉田家長男の幸せでは・・・はじまりはじまり~✩
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――これは俺がまだ課長に出会う前の話。
何も知らなくて、無知だった頃の俺の話――
春、庭の花壇にチューリップが咲いた。母さんが大切にしていた小さな花壇。世話する暇もなくて放置していたにも関わらず、緑色の茎が真っ直ぐにお日様目指して伸びていた。
「優ー!俺今日入社式だから早く出るからな。ちゃんと鍵かけてけよー!」
真新しいスーツに身を包み、中庭に回り込んだ俺は窓を開けて弟の優に呼びかけた。
「兄ちゃんストップ!!」
「何?」
「・・・すっかり社会人って感じ!何か知らない人みたい!」
窓際から俺を呼び止めそう満足気に言うと優は小さな包み紙を差し出した。
「何これ?」
「えっとー・・・入社おめでと、僕からのお祝い!!」
「開けていいの?」
「もちろん!」
思いがけないプレゼントにビックリしながらも中を開けると皺一つないチェック柄のハンカチがあった。
「どう?」
「うん、俺の好きな青色だ。ありがとな、優。」
「どういたしましてっ!」
「大事にする。」
「うん!いってらっしゃい!」
優の頭よしよしと撫でてハンカチをスラックスのポケットにしまうと俺は今度こそ家を出た。俺は満開に咲いた桜を眺めながら駅までの10分を楽しみながら歩く。
去年は家族4人で花見をしたっけ。今年もまた見に行こうかな?
・・・優と2人で。
去年の6月、両親が交通事故で他界した。身寄りがない俺達兄弟は2人で頑張って生きる事を決め、どうにかこうにか今日までやってこれた。俺は幸運にも葬式後直ぐに今の会社の内定を貰え、いよいよ今日が入社式。
よしっ!ガッツリ仕事して、おもいっきり稼ぐそ!!!
吉田家の大黒柱として(って言っても俺と優だけなんだけど)優を立派に育ててみせる!幸せに笑っていられる様に働くぞ!!!
俺はこれから始まる新しい生活に期待を膨らませていた。
*****
無事入社式が終わり約30人程が集められ、新入社員への研修が始まった。まずは各部署から代表者1名が自分達の仕事の説明をして、それから俺達はその部署の部長とマンツーマンでの面談が開始される。
俺はもともとSEになりたかったからシステム部の第1~5課まであるどこかへと配属を希望した。システム部は社内でも一番仕事量も多く、営業部と並んで花形と呼ばれる部署だ。でも少しでも早く仕事を覚えて即戦力になりたい・・・優に不自由な思いをさせたくない。その一新であえて大変であろうこの部署を俺は選んだ。
「えーと・・・吉田光君、ね。君は内定前からうちの部署への配属を希望していたけれど・・・今も変わらないかい?」
俺は会議室でシステム部の部長と面談をしていた。部長っていうから年配の人を予想していたが随分若い。多分40代前半だろうか?ジムで鍛えているであろう筋肉質な体格、春なのに小麦色に焼けた肌。目元にうっすらと見えるシワは老いた感じではなく、逆にチャームポイントみたいに爽やかで良い年の重ね方をしてきたんだろうなと思った。
―――・・・どう見てもサーファーにしか見えない。ま、良いんだけどさ。―――
「はい!システム部への希望は変わっておりません。是非よろしくお願いします。」
「気合が入っていていいね!世間一般ではうちみたいな業種で働く人間はたいていモヤシみたいな男か根暗なオタクっていうイメージがあるみたいだけど、それは大きな勘違いだ。吉田君、私がモヤシっ子に見えるかい?」
「い、いえ・・・どちらかというと逆の体育会系です。」
「だろ?俺・・私はそのイメージを払拭したい。そして心身共に力強い会社にしたいんだ。だから新卒連中にはまず元気な挨拶と何事にも食らいついていく精神力。まあ気合だな!これを大事にしていって欲しい。」
「はい。」
何だか・・・男前だけど凄い気合系な部長だな。笑うと肌が黒いせいか白い歯が一層際立つ。でもこれから俺の上司になる人だろうし、少しでも好印象をもってもらわないと。
「えーあとは・・・君は家族と4人暮らし、っと・・・」
「あ、すみません。今は・・・2人なんです。」
「ん?」
部長の面接表を見る手が止まった。この会社の採用試験が終了した直後に両親が他界してしまい、後に提出した家族構成の欄がまだ変更されていなかったみたいだ。
「あの!人事には連絡してあったんですけれど・・去年の6月に両親が他界しまして。今は弟と2人暮らしなんです。」
「・・弟さんは何年生?」
「・・4年生になりました。」
「そうか・・・」
空気が一気に重くなる。でも別に隠す事でもないし、いずれ分かってしまうのであれば早いうちに知っておいて欲しかった事なので、俺は黙って部長の次の言葉を待った。
ガタンッ
どこからか物が落ちる音がした。他に一緒に何か落ちる音はしないので、きっと椅子か本か・・そんな所だろう。
もしかしたら今の会話を聞かれたかもしれない。
・・・まあいい。どうせまだ知り合ってすらいない顔も知らない人だ。何も気にする必要はない。
「他に希望ないかい?」
「え?」
「例えばこんな人がいる課には行きたくないだとか、あとは苦手なタイプの人間はいない?未来の大事な即戦力にいきなり辞めてしまわれるのは困るし、特に君は少し人目を引く顔立ちだからね。」
「いえ、そんな・・・特に苦手な人はいませんね。・・あのっ!出来れば・・・」
「なんだい?」
「一番忙しい課に配属して頂きたいんですが・・・」
「・・・それはまた、どうしてだい?」
「部長もご存知のように私は今弟と二人暮らしをしています。これから何かと物入りだし、養っていく為にも早く一人前になりたいんです。」
今はまだ両親が残してくれた遺産や保険金があるからいいが、この不景気今後どうなるかなんて誰にも分からない。だから俺は忙しくてもいい、沢山扱いてくれる課へ配属されて出来れば早く昇進したかった。
「君の考えは分かった。参考にさせてもらうよ。」
「ありがとうございました。是非ご検討お願いします。」
部長は俺の意志の強さを読み取ってくれたのかそれ以上質問はせず、俺の面談が終わった。
・・・ちゃんと、伝わったよね?・・・
俺は会議室から出て、新入社員の控え部屋へと向かった。
確か正式な辞令は明日の夕方に出る。吉と出るか凶と出るか・・・
「おい、そこの新卒。」
「え?」
不意に呼び止められ振り返るとそこにはムスっとした顔で俺を見下ろす一人の男が立っていた。
・・・うわ、背高!しかも男前・・・
俺の頭一つ分高い身長とやたらと長い足。その完璧なスタイルに合わせて作ったと思われるオーダーメイドのスーツ。なんだが雑誌のモデルが目の前に出てきたようだなと俺はその人を見上げた。
「吉田・・・光?」
「え!?何で俺の名前を?」
「ププッ・・・お前ガキみたいだな。」
「!?」
「ほら、落し物。今時ハンカチに名前なんて書くなよ。」
「え!?」
どうやらこの人は俺が落としたハンカチを拾ってくれたらしく・・・しかもそれは今朝優から就職祝いに貰ったハンカチのようだった。
「ハハハハハッ!いやー今年の新卒は何か違うと思ってたら・・・やっぱ俺の感は当たったわ。」
「!?」
ゲラゲラと笑う男からハンカチを受け取り広げてみてみると、そこにはマジックで俺の名前が書かれていて・・・しかもその字は汚いうえにぼやけて滲んでいた。
・・・ゆ、優のやつ・・・
「お前の名前覚えた。配属先、一緒だといいな。ヒ・カ・ル・ちゃん?」
「!!!!!」
まだ笑いが収まらないのか、その男前は腹を抱えながら俺の横を通り過ぎた。
俺はフツフツと怒りが込み上げてきて・・・
―――なんっだよ!アイツ!!!!!
ちょっと位顔がいいからって何言っても許されんのか!?
しかも自分の名前すら名乗らないで俺を光ちゃん呼ばわりかよ!!
・・・アイツ、嫌い!!!すっごく嫌い!!!―――
せっかくいい気分で社会人生活がスタート出来ると思っていたのに!!
アイツのせいで台無しだ!!何なんだよもうっ!!!
俺はありったけの自制心で気持ちを落ち着けようとするも握る拳は怒りで震えていた。
第一印象最悪っ!!!アイツ昔会った神社の喧嘩兄ちゃんみたいに印象悪い!!!
・・・まあこんな所にあの兄ちゃんがいるわけないけどね。だってあの喧嘩ばっかしてそうな人がまさかシステム会社にいるはずがない。
・・・・・・
とにかくっ!!今の事はなかった事にしよう。忘れるんだ、俺。今後顔を合わせる位はあるかもしれないけれど、一緒に仕事することはないだろうから。
俺はそう自分に言い聞かせエレベーターホールへと向かった
父さん母さん、今日俺入社早々嫌な奴に出会ったよ。
偉い男前だけど失礼で、やたらと笑うヤツ。
これから同じ会社で働くのかと思うと正直気は重いけど・・・頑張るよ。
優の幸せのために・・・そして俺の幸せのために。
*****
ちなみに翌日分かるんだけど、俺が配属されたシステム部第一課に・・・アイツがいた。
挨拶の時やたらと俺の方を見てニヤニヤ思い出し笑いしていたのを俺は忘れない。
そして災難がもう一つ
そいつの役職は「課長」で・・・俺の上司だった。
ファイト・・・俺(泣)

